2017年12月17日日曜日

退出者 10 - 7

 部下達の報告が終わると、ハイネ局長はリュック・ニュカネンとポール・レインに退室を指示した。ベイルがそれにさらに指示を添えた。

「今夜は遅く迄ご苦労。帰って休め。」

 ニュカネンとレインは銘々「おやすみなさい」と挨拶して長官執務室を出て行った。
 ベイルは局長とコロニー人幹部達を見た。長官が素直に疑問を局長にぶつけた。

「何故この場でリュック・ニュカネンの恋人の件を持ち出したのだ?」

 クーリッジも同じ思いだった。出張所設置報告と局員の恋愛は別問題だろう、と思ったのだ。しかし、ハイネ局長はケンウッドを見ながら行った。

「ニュカネンの恋愛は既に北米南部班全体に知れ渡っているのです。若い連中は動揺して、副長官にニュカネンの様子を報告する者も出ました。このまま放置していては、局員に示しがつきませんし、ニュカネンにも相手の女性にも良くありません。」

 ケンウッドも言葉を添えた。

「リュック・ニュカネンは規則を厳密に守ることで知られていました。子供の頃からの性格です。そのニュカネンが重大な違反を犯したのです。局長としては放って置けないでしょう。」
「しかし、この報告会で出す案件かね?」
「これが出張所設置の報告会だから、出したのです。」

 ローガン・ハイネ局長は長官、副長官、保安課長、そして班チーフと順番に顔を見て、再びリプリー長官に視線を戻した。

「リュック・ニュカネン・ドーマーをアメリカ・ドームから追放します。」

 ええっ!と全員が衝撃を受けた。ハイネは彼等に意見を言う間を与えず、続けた。

「そして元ドーマーとして、セント・アイブス・メディカル・カレッジ・タウン出張所の管理者に任命したいと思います。どうか承認を頂きたい。」
「ハイネ・・・」

 ケンウッドは、ハイネの心情を理解した。ローガン・ハイネ・ドーマーにとって部下達は全員可愛い息子だ。1人として手放したくはないだろう。しかし、リュック・ニュカネン・ドーマーは外の女性を愛してしまった。ニュカネンが妻帯許可申請を出さなければ、彼はクローン観察棟で再教育を受けさせられる羽目になる。彼女が妊娠したことを誰も知らぬまま、彼を別の班に再編入させて北米南部から遠ざけてしまう。遠い昔、コロニー人女性を愛して彼女に突然去られた経験を持つハイネは、アンナスティン・カーネルがニュカネンを失う時のショックを想像出来るのだ。そして子供の誕生も成長も知らぬまま生きてきた自身を思い、可愛い息子には同じ悔しさを味わせたくないのだ。
 だから・・・

「君はグズグズして煮え切らないニュカネンにハッパをかけたのだね?」

 ハイネがケンウッドを振り返って微笑んだ。

「ニュカネン・ドーマーは1人になっても十分やっていける能力と活力を持っています。新設する出張所の所長としても、彼の性格はふさわしいと思います。」

 ベイルが目頭を指で押さえて、局長、と呼びかけた。

「正直、私は彼をどうすべきか悩んでいました。彼は手放すに惜しい人材ですが、それ故に、安心して出張所を任せられます。ご英断、有り難うございます。」

 ハイネはリプリーを見た。

「どうか、ドーマーの追放をご承認頂きたい。」

 リプリーも苦笑して頷いた。

「相手の女性をシングルマザーにして、子供に父親の正体を明かさぬまま成長させるのも良くないしなぁ・・・」