2017年12月24日日曜日

退出者 11 - 3

 所長室は、ドーム幹部の執務室の小さい版だった。正面奥に執務机があり、中央に3次元画像を出せる小型の会議机があった。ニュカネンは会議机が床下収納に出来ないことを謝った。

「そこまでは予算が足りなくて・・・」
「それは申し訳なかった。」

とリプリー長官が謝ったので、ケンウッドが笑った。笑ったことでニュカネンを恐縮させずに済んだ。3人で会議机を囲んで座った。

「仕事は順調そうだね。」
「いえ、暗中模索です。何から何までドームとは勝手が違いますから。ここでは何でも自分でやらなければなりません。相手を怒らせた時や失敗した時に取り成してくれる上司はいませんし、雑用をちゃっちゃと片付けてくれる維持班もいません。全て私がやって、部下を指揮しなければなりません。毎日気が抜けませんよ。」
「まさか、休みなしで働いている訳じゃないだろうね?」
「部下は週休2日制を採らせています。」
「部下は?」

 ケンウッドが言葉尻を捉えた。

「君はどうなんだ?」
「私は・・・その時の仕事内容次第で・・・」
「それは駄目だ。」

 リプリーも言った。

「君は家族を持ったんだぞ。子供もいるだろう? ちゃんと決まったローテーションで休め。遺伝子管理局は警察や消防署ではない。土日は休んで構わないのだぞ。」
「そうだ。大学や研究機関も土日は休みだろうが? 」
「しかし、違反者は隠れて研究していることもあります。」
「そんな場合のみ、働けば良いのだ。情報収集の手筈は整っているのか?」
「まだ情報提供をしてもらえる人材を探しているところです。」
「焦る必要はないのだよ、ニュカネン。出張所はまだ始まったばかりだ。人脈は時間をかけて構築して行くものだ。」
「そうとも。だから、君も突っ走ってばかりいないで、ちゃんと休みなさい。」

 長官と副長官から忠告をもらって、堅物リュック・ニュカネンの目に光るものがあった。

「私は、幸せ者です。子供時代はドームで大事に育てていただき、大人になって好きな仕事をさせてもらい、愛する家族を持つことを許されました。」
「ああ、君は世界一幸せなドーマーだな。」
「だから、無理せずに、体を大事にして暮らして欲しいのだよ。」
「有り難うございます。」

 ケンウッドとリプリーが立ち上がったので、リュック・ニュカネンも立ち上がった。2人のコロニー人は会議机を回って彼に歩み寄ると、順番に彼を抱きしめた。

「ドーマーだろうが元ドーマーだろうが、君は私達の可愛い息子だ。」