2017年12月8日金曜日

退出者 9 - 6

 翌日の執政官会議は普段通り、各セクションの研究進行報告から始まった。地球人の女性誕生の目処はまだ立たない。それでも科学者達は可能性を求めて研究を続けているのだ。
 ただ1人の地球人出席者、遺伝子管理局長ローガン・ハイネ・ドーマーはいつも通り居眠りでこの時間をやり過ごした。コロニー人達は彼が目を覚ます様な結果を出さなければならない訳だ。
 研究発表が終わり、前日の喧嘩騒動の当事者であるコロニー人男性と、後から名乗り出たコロニー人女性が別々の入り口から現れた。それぞれ自身の席に着くと、クーリッジ保安課長が立ち上がり、騒動の顛末を語った。そして語り終えると着席した。

「ジェームズ・オコーネル研究員、メイ・カーティス研究員」

とリプリー長官が騒動の当事者2名に呼びかけた。

「我々は裁判官ではないし、君達の将来を決める権限は持っていない。しかし、地球人類復活員会には会則があり、君達は今の職を得る時に、その会則を遵守することを誓ったはずだ。そこで、我々は君達に確かめたい。君達はここに残って研究を続ける意志があるのか、それとも地球を去って君達の幸せを求めるのか、どちらを選択するか、この場合で明確にして欲しい。」

 オコーネルが立ち上がった。

「私はカーティス研究員と結婚したいと思っています。」
「そうすると、地球を去って、研究も断念することになるが?」
「・・・残念ですが・・・」

 するとカーティスが立ち上がった。頰を緊張で強張らせてやや青ざめていたが、しっかりとした口調で行った。

「私は博士になりたくて地球へ来ました。今の仕事が好きですし、辞める意思はありません。」
「メイ!」

 男が声を上げたので、リプリーが睨んだ。オコーネルはトーンを落とした。

「君を愛している・・・」
「ごめんなさい。」

と彼女が呟いた。

「考えましたけれど、やはり私は研究を捨て切れません。貴方は素晴らしい人だわ、ジミー、でも私は貴方についていける自信がありません。研究を捨てて貴方と暮らしても、いつか私は貴方を裏切るかも知れません。」
「地球の外でも研究は出来るじゃないか!」
「でも実際にクローンの赤ちゃんを扱う訳ではないわ。」

 再び男女の喧嘩が始まりそうな気配になったので、リプリーが彼等の会話を遮ろうとした時、遺伝子管理局長が動いた。ハイネが目を開き、自身の端末を出して画面をちらりと見た。そして長官を見て、端末を少し掲げて見せた。連絡を寄越してきた誰かと話をしたいので退席すると意思表示したのだ。リプリーは頷いて承諾を示した。
 ハイネ局長は立ち上がって素早く会議室から出て行った。
 長官は2人の若い男女に注意を戻した。水が入ったのでオコーネルとカーティスは少々気を削がれた様子だった。

「オコーネル研究員」

と呼びかけたのは、ケンウッド副長官だった。

「君はここで研究を続ける意思はないのですか?」
「・・・それは・・・今の仕事は好きです。」
「だが、カーティス研究員と結婚出来るのであれば、辞める、と言うことですね?」
「・・・それは・・・ええ・・・そうです。」
「結婚を諦めてここに残る可能性は考えられませんか?」

 オコーネルは前方の床を見つめた。1分間の沈黙の後、彼は小さな声で囁いた。

「考えられません。」