2018年1月1日月曜日

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 アメリカ・ドーム中央研究所では、ニコラス・ケンウッド長官とガブリエル・ブラコフ副長官が遺伝子管理局長会議の結果報告を長官執務室で読んで内容を検討していた。ドーマー交換は執政官が計画し、遺伝子管理局が認可して初めて成立する。その認可基準の改定なので、執政官にも関係するのだ。
 空から光る物体が落下して来た時、長官室では見えなかった。窓がないからだ。しかし直後の床の振動と停電は2人のドーム代表を仰天させた。真っ暗になった室内で3秒ほど固まってから、ケンウッドは2人の秘書に指示を出した。

「ヴェルティエン、出産管理区とクローン製造施設に安全確認してくれ! ロッシーニ、維持班に連絡だ。どうなっているのか聞いてくれないか?」

 ブラコフが「私は遺伝子管理局に連絡を取ります」と言った。ケンウッドは暗闇で頷き、それから「頼む」と声を出した。そして自らは保安課に電話を入れた。
 電話はすぐには掛からなかった。数秒してから呼び出し音が聞こえ、ケンウッドはその時間差でマザー・コンピュータが自己防衛で電源を遮断したのだなと悟った。3回目の呼び出し音の後でアーノルド・ベックマン保安課長が出た。

「ベックマンです。」
「ケンウッドだ。何が起こったのだ? 地震か?」
「いいえ、空からの落下物です。」
「落下物?」

 ケンウッドの声に、各所に電話を掛けていた部下達が一瞬聞き耳を立てた。ベックマン課長が「落下物です」と繰り返した。

「まだ詳細は不明ですが、当ドームの太陽光発電システムの蓄電所付近に何か落ちたために送電回路が損傷したと思われます。維持班にこれから様子を見に行かせます。」
「放射線の危険が考えられるので、まずロボットに調査させてくれ。」
「承知しております。あっ、ちょっとお待ちを・・・」

 ベックマンが部下と言葉を交わす気配がして、たっぷり30秒待たされた後、再び課長が電話口に戻った。

「失礼しました。部下の報告によりますと、落下物は広範囲に広がった様で、シティでも停電と火災が発生している模様です。」

 シティと言うのはドームを取り巻く地球人の都市だ。ドームに収容されて出産する女性達の為の出産用品や新生児用品を扱う商店、妻達を待つ夫達が待機する宿泊施設などが集まった街だ。ドームのすぐ外は広大な草原と空港があるので、都市の街並みはかなり離れているのだが、そこにも落下物があったとなると、かなり拡散している様だ。
 その時、ケンウッドの端末に新たな着信があった。発信者の名前を見て、ケンウッドはベックマンに断りを入れた。

「ベックマン課長、アメリカ大統領から電話だ。悪いがちょっと失礼する。」