2018年1月7日日曜日

購入者 2 - 8

 レインとクロエルの報告書の内容を聞かされて、ケンウッドは思わず声を立てて笑ってしまった。勿論ドーマー達はドームの最高責任者に向かって腹を立てたりしない。しかしレインは赤くなり、クロエルは唇を尖らせて笑われたことに対して不満を表した。

「笑ってすまなかった。」

とケンウッドは謝った。

「だけど、『てん、てん、てん』だけの報告書はないだろう?」
「だって、死ぬほど寒かったんですう・・・」

 クロエルは哀しそうに抗議した。チェイスが長官に言った。

「南米班と北米南部班が手抜き教育をしたとは思いませんが、コイツ等、ちょっと気が緩んでますよ。」

 シュナイダーが頷き、お固い秘書として有名なネピアも同意した。ハイネは我関せずの顔で食べることに集中している。
 ケンウッドはクロエルとレインに尋ねてみた。

「カナダはどれだけの寒さだったのだい?」
「そりゃもう、吹雪で前は見えないし、路面は凍結してツルツルだし、位置確認システムはダウンするし・・・」

 クロエルが早口でまくし立てると、リーダーのシュナイダーが口を挟んだ。

「天候を事前にチェックして、ブリザードが来るとわかっていたのです。だから部下達に今回はオタワとモントリオール周辺だけにしておけと言ったのですがね・・・この2人は北側の森林地帯に入り込んじゃって、4時間も連絡を絶っていたんですよ。電話も嵐で通じないし、遭難したのかと心配で、局長に衛星で体内電波を探査してもらおうかとチーフに相談していたら、やっとレインが電話を掛けてきて・・・」

 ケンウッドが視線を向けたので、レインが言い訳した。

「吹雪で視界を奪われてしまい、動くのは危険だと判断しました。路上に停車して吹雪が止むのを待つ間、エネルギー節約のためにエンジンを切っていました。電話もバッテリー節約で切って・・・」
「せめて、その連絡ぐらい事前にしろよな!」

 シュナイダーは心配させられた分、腹が立ったようだ。

「ケベックシティ近郊ではバスやトラック等20台の車が事故を起こして大勢の死傷者が出ていたんだ。君等が巻き込まれたんじゃないかと気が気じゃなかった。」
「・・・もうそれ3回も聞きました。」
「ケベックには行きませんよ。最初から予定に入れていません。」

とつい口答えする若造2人。反省しているのかしていないのか、ケンウッドには判断つきかねた。すると、ハイネが初めて口を挟んだ。

「シュナイダー、もうそれぐらいにしてやれ。レインもクロエルも早く温かい物を腹に入れろ。レインは明日効力切れの日だ。温めておかないと体が保たないぞ。」

 シュナイダー・ドーマーが素直に引き下がったので、やっと平の2人は落ち着いて食事にありつけた。ケンウッドは対面のハイネを見て、微笑んで見せた。ハイネもちょっと笑って返した。ハイネはチェイスとシュナイダーの怒りを解消させ、若いレインとクロエルに上司の心配する気持ちを聞かせたのだ。しかししつこい叱責は逆効果を生む。だから適当な時を見計らって介入した。