2018年1月8日月曜日

購入者 3 - 1

 新しいケーブルの部品が翌日の昼前に届いた。ロビン・コスビー維持班総代表は早速技術系執政官立会いの下で荷物の内容を検めた。これには副長官ガブリエル・ブラコフも立ち会った。そして昼食も取らずにコスビー率いるアメリカ・ドームの技術屋達は作業着の上に防寒具を重ね着て寒風吹き荒ぶ外へ出かけて行った。
 ケンウッドは作業の様子を長官執務室でモニター観察した。地球人達はロボットを使いながらも細かな部分は自分達の手で修理した。コスビーと若いドーマーの2人が手袋を脱いで素手で小さな鋲を留める作業に入った時には、ケンウッドは思わず「止さないか!」と独り言を叫んでいた。凍傷や傷がドーマーの手を痛めつけないかと心配で堪らなかった。横で一緒にモニターを見ていたドーマーの秘書ロッシーニが思わず苦笑した。

「心配症ですな、長官。」
「からかうな、ジャン=カルロス。私は宇宙で怪我をした人々の診察をした経験がある。宇宙空間にも細菌は居るし、船外温度は極地より低いのだ。地球人の君には想像出来ない様な酷い症状に陥った男もいた。ドーマー達にはあの男の様な辛い目に遭って欲しくないのだよ。」
「それは失礼しました。コスビーにはもっと短時間で仕事を終えるよう言っておきます。」

 だが低温の場所では人間の作業効率は落ちるのだ。ケンウッドは時短よりロボットをもっと使えと言いたかった。
 たっぷり3時間使ってコスビーのチームは送電線の修理を完徹した。コスビーはモニター用カメラに向かって、勝利宣言をするかの如くOKとサインを出した。
 中央研究所の照明がグッと明るくなった。エアコンから温風が出て来た。「ああ」とロッシーニが肩の力を脱いた様な声を出した。

「これでハイネ局長の素敵なコート姿ともお別れですな・・・」
「そうだね。」

 ケンウッドも惜しい気がした。通年気温が安定しているドーム内部では、コート着用は不要なのだ。するとブラコフが思わぬ提案をした。

「『外』の気温を冬はちょっと下げてはどうですか? 地球人の体力なら耐えられる温度にして、建物の内と外に温度差を設けるのです。電力節約になりますし、ドーマー達にも刺激になるでしょう。」