2018年1月13日土曜日

購入者 3 - 7

 食事が終わると、ケンウッドとハイネはクロエル・ドーマーと別れて遺伝子管理局本部へ行った。既に業務は終わっていて夜勤の受付と残業の内勤業務をしている局員しか残っていない建物に入り、局長執務室へ向かった。受付は局長が仕事を上がった後でも戻って来ることが珍しくないので何も言わなかった。
 停電が解消されたばかりで、広い局長室はガランとして空気が冷たかった。ハイネは部分暖房を入れて送風口の近くに椅子を置いた。2人はそれぞれ送風口の方を向いて座った。
 落ち着くと、ケンウッドは直ぐに要件に入った。

「今回の墜落事故は、実は浮遊ゴミの墜落ではなく、宇宙防衛軍が演習中に起きた無人戦闘機の事故なのだよ。」

 ハイネが黙っているので、彼は続けた。

「無人機が暴走したので軍は安全の為に破壊したのだが、運悪く地球の引力圏に入ってしまっていた。それで空気の摩擦で燃えた戦闘機の燃えカスが地上に落下したのだ。だから送電線ケーブルの修理費は軍が支払うことになっていた。」

 過去形に気が付いたハイネがケンウッドを見た。ケンウッドは彼の無言の問いかけに答えた。

「軍は支払えなくなったのだ。シティにも被害が出ただろう? あちらの被害の方が甚大でね、地球政府の要請により、軍はあっちを優先することにした。それで、地球人類復活委員会に支払い代金の立て替えを頼んで来たそうだ。」
「委員会は支払う気がないのですか?」
「委員会にも金はない。」

とケンウッドは言った。

「いや、元々委員会自体、営利団体ではないからね。出資者達に払ってもらうのがベストなのだが、その出資者の一つにケーブルの部品製造会社が債権を売ったのだよ。それが、宇宙開拓事業団で・・・」
「ああ・・・」

と得心がいったとハイネが頷いた。

「宇宙開拓事業団が部品会社にケーブル代を支払ったので、その代金を地球人の遺伝子で支払えと地球人類復活委員会に請求して来たのですね。」

 ハイネの様に物分かりの良いドーマーがいるとドームは助かる。ケンウッドは固い表情で頷いた。

「そう言うことだ。軍は1年以内にこちらへ立て替え代金を返すと言っているそうだが、私は宛にならないと思う。ケーブルの代金は戦闘機より安いが、連中はケチだから・・・」
「期限はいつ迄です?」

 ハイネはケンウッドの愚痴を遮った。問題はさっさと片付けようと言うことだ。
 ケンウッドは正直に答えた。

「3日以内だ。しかも、高温多湿の気候に耐えられる遺伝子が欲しいと条件が付いている。委員長は2人分で十分だと言っているが・・・」
「高温多湿に耐えられる人種でしたら・・・」

 ハイネは端末を出してちゃっちゃと検索した。

「インドネシア系とベトナム系のドーマーが数名います。勤務予定を調べて明日の午前中に『お勤め』指示を出しておきましょう。2人だけでよろしいのですね?」
「うん。頼んだよ、君の素早い対応は本当に助かる。」

なぁに、とハイネは小さく笑った。

「子供達も具体的にドームの役に立つことでしたら喜んで協力してくれますよ。」
「宇宙開拓事業団の係は4日後に地球へ降りて来るそうだ。なるべく彼等がドーマーと直接接触しないように気をつけて対応する。」
「私は挨拶に出た方がよろしいでしょうか?」
「いや、その必要はない。ハナオカ委員長も君が彼等に会うことを望んでいない。」
「成る程・・・」

 ハイネはちょっと考え込むふりをした。

「では、若い者はお客さんの前に出来るだけ出ないように言っておきます。コスビーにも伝えておきます。」