2018年3月16日金曜日

泥酔者 2 - 6

 ポール・レイン・ドーマーの意識下では、ローガン・ハイネ・ドーマーは滅多なことでは腹を立てない。不機嫌になることはあっても、他人に向かって怒りをぶつける様な真似はしない。常に冷静で落ち着いている人だ。

「あの局長を激怒させるとは、一体全体、件の博士は何をやらかしたんだ?」
「僕にはわかりませんが・・・」

 ゲストハウス係はレインが驚く様なことを教えてくれた。

「副長官から中央研究所で働くドーマー達に通達があって、研究所内に局長がおられる時は、ハリス博士を絶対に局長の目につく場所に行かせるな、と指示が出ているそうです。ドーム内を博士が歩き回る時は、遺伝子管理局本部に足を踏み入らせるな、と。」

 うーむ、とレインは思わず唸った。

「それは局長をかなり怒らせた、と言うことだな・・・しかも副長官が気を遣っておられる。」

 ゲストハウス係は、10数年前の事件を思い出した。

「まさか、あの博士は局長を名前だけで呼んだとか?」

 ローガン・ハイネ・ドーマーはファーストネームで呼ばれることを好まない。何故なら、それは彼の亡き部屋兄弟ダニエル・オライオン元ドーマーだけの特権だったから。
それを知らなかったあるコロニー人が、危うくハイネに殴り倒されそうになってドームから逃げ去った、と言う事件があったのだ。
 考えても埒が明かないので、レインはゲストハウス係に礼を言って別れた。
アパートに向かって歩いている間、彼は新入の博士について考えていた。地球へ降りてくる時期を1ヶ月も早く数え間違いしていた、と言うのは、嘘っぱちに聞こえる。ハリスはコロニーに居ては都合が悪かったのだ。だから早々にチケットを購入して地球に降りるシャトルに乗り込んだ。